我輩がスーツを着ても底辺は底辺であるということ(クレジットカードの受付のアルバイト体験談 第3話)

五連勤が終わった。明日には六連勤になる。正直我輩は精神的にきている。疲れた身体でこの記事を作成した。

スーツを着用するということ

我輩は、いつしか、スーツを着こなすサラリーマンを憧憬していた。東京に来ると、同年代の男がイカしたスーツで颯爽と街を闊歩している。

一度はスーツを着てみたいと思うのが男という生き物である。

それも、ただのコスプレではなく、社会的な要求に従って、社会的な組織に属しながら、スーツを着ることに、価値があるのだと思う。

そんなことを思っていた折に、我輩はクレジットカードの受付業務のアルバイトを始めた。指定の服装はスーツである。

そう、スーツを着用する機会を神から賜ったのである!

スーツを購入する時が来た

東京でスーツを着る我輩、スーツを着こなす我輩、我輩は妄想した。

そもそも、我輩はスーツを着てもおかしくない年齢であるため、ようやく我輩にも大人の道を歩み始める時期が来たというべき感動が、そこにはあった。

胸弾ませた吾輩の野心は三万円程度のスーツの購入を強く希求した。

が、何度も申し上げる通り、我輩は貧乏人である。そのため吾輩は、SEIYUのスーツ(ジャケットとズボンのセット)を8800円で購入したのだ。1)1万円未満のスーツがいかに格安なのかよくわからない方に説明しよう。先日、有名なブランドを展開するユナイテッドアローズに入店したときのことである。気に入ったネクタイの値札を確認したところ、3万円もして驚きのあまり白目をむいた。こんな小さなネクタイ以下のスーツを身につけている情けなさ及び悲しさと、こんなネクタイ如きで三万円も強奪することが常識という風体に対する怒りが同時に湧き上がり、悲憤死しそうになった。

安モンスーツを身につけて嬉々とする我輩は、我ながら情け無く、いかにも可哀想な人種の典型例だと思った。それも、正社員ではなく、ただのアルバイトである。

これが底辺の思考、負け組の思考である。

スーツを着用する無意味性について

勤務が始まった。

我輩は、採用が決定されてからしばらくの間、幾度も幾度も、妄想した。空調の効いた部屋で、綺麗な言葉を使用し、椅子に座しながら、優雅にクレジットカードの手続きをおこなう我輩を。

現実は、駅構内のど真ん中で、小汚い机を用意し、キャッチ紛いのやり方でくだらないカードの喧伝をする我輩の姿ばかりであった。

客には無視をされ続け、普段声を出さないために声は枯れ、慣れない革靴によって足がやられ、ひたすら八百屋の叩き売りの如く、カードの特徴を、駅構内の空中に投げかける。

それが我輩の主な仕事であった。

そのうえ、スーツのジャケットの上にジャンパーを着用するという気狂いの沙汰と思われるような服装で仕事せねばならない。人で混み合う東京の駅内は、暑くて蒸し蒸しして大変不愉快なこと限りなく、労働環境は工場レベルの劣悪ぶりと言っても差し支えない。

キャッチに引っかかりたくない道ゆく人々たるは、我輩を避けるように歩いている。そんな状況を認識していると、だんだん意識が遠くなり、ぽかんと我輩の寂しい背中がみえた。

道行く人は皆、子供を連れ、伴侶を連れ、恋人を連れ、友達を連れている。我輩はただ独り、駅の真ん中で、人の幸せを横目で眺めながら、大きな独り言を発しているのみである。

そんな幸福者たちに冷たい目線を受けながら愛想笑いを続ける我輩。それが、スーツを着た我輩の現実であった。

References   [ + ]

1. 1万円未満のスーツがいかに格安なのかよくわからない方に説明しよう。先日、有名なブランドを展開するユナイテッドアローズに入店したときのことである。気に入ったネクタイの値札を確認したところ、3万円もして驚きのあまり白目をむいた。こんな小さなネクタイ以下のスーツを身につけている情けなさ及び悲しさと、こんなネクタイ如きで三万円も強奪することが常識という風体に対する怒りが同時に湧き上がり、悲憤死しそうになった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です