同僚の吉川との間に停戦の風(ベンチャー企業でのメールカスタマーサポートのアルバイト体験談 第3話)

「無能」という概念について(追記:2018/09/04)

今では人並みに仕事が出来るようになり、我輩自身を過剰に無能と呼んでいたのは正しい認識ではないと理解できるようになった。今考えれば、ニートしていた状態から普通に働けば、誰だって最初は無能である。ニートでなくても、特別な場合を除いて、どんな仕事も最初はみな無能からスタートする。読者諸氏よ、お互いに頑張ろうではないか。

詳しくは「『無能』という概念についての簡潔な報告」を参照。

聞こえるぞ、前進という名の妥協の音色が。

我輩はとことんプライドが高い。無能であることを強く自覚しているから、防衛反応として過剰にプライドを保護しようとする。

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我輩は、どの仕事をしてもミスをする。なぜ我輩以外の人間は真顔で細かい作業がすぐにできるようになるのだ?

前回の記事でほぼ同期のアルバイトの吉川と日本語に関して口論を交わしたと説明したろう。非正規同士、同族嫌悪的な犬猿の同僚として、互いに争い続けるような姿勢を見せて記事を締めた。

性格が悪い無能って…

しかしながら、後々に、我輩は簡単なミスを連発する人間であると自他ともに認められるようになり、もはや完全に仕事できる吉川にマウントを譲るハメとなった。

吉川は我輩より2週間ほど早く入社し、我輩より多くのシフトで仕事をしている。そうであってもやはり、2週間で教育係を任され、また、メールカスタマーサポート業務以外の乗務を任されている。吉川は、仕事ができるのだ。

仕事で勝てないと思った我輩は、吉川に対して急に後輩のツラを見せて、ヘコヘコし始めた。あまりにも露骨である。しかしながらもう、我輩は偉そうに彼と対峙している暇がなかった。

そこそこ仕事が出来るなら性格に難があっても赦されるが、無能で性格に難がある給料泥棒が、どうやってベンチャーの狭い社内政治で生き抜くことができよか?いや、できない。

今思えば、無能かつ性格がクズの我輩を匿った実家たる環境は、余りにも特異な場所であると思われた。

さて、そんな我輩は吉川に誠意をもって教えを請い続けた。

我輩が大人になってから初めての、ういういしき帰伏である。

他人の表情は自分の鏡と言う言葉1)他人の表情は自分の鏡とは、我輩がコンビニアルバイトをしているとき、三十代のバイトリーダーがドヤ顔で言ってた言葉。無愛想に接客をすると、客も悪い態度を取ってくるという、接客態度に難があった我輩を戒める言葉だ。当時は下らないと耳を貸さなかったが割と大人になって効いてくる。を聞いたが、まさにその通りで、昔の軋轢が嘘かの如く、双方がニセの笑顔で取り繕い、いつの間にか「アレ、この人は案外悪い人ではないのでは?」といった微妙な感情を互いに垣間見せた。

みんなの日常、それは非日常

ある時、中にアンコが詰まった丸いドーナツを頬張りつつ仕事していた吉川が、「ワガクズさん、よかったら一つどうですか?」とこちらに甘い球体を差し出してきた。

我輩はキョトンとした。

好意を以ってして、お菓子複数個含む袋から一つのそれを取り出し、知り合いに差し上げるという行為自体ふつうの事である。しかしながら、我輩にとってそれは、実に非日常的イベントであった。

我輩はアンコ好まないため、正直その甘みを有するお菓子を口に含みたい欲求は無かった。しかしながら、返報性の原理2)返報性の原理とは、好意に対して好意で返そうとする人間の心理。やら難しい心理用語を学んだことがあったが、まさしくこのことを言うのだろう、その好意に対して我輩は、無意識に「そのお菓子を頂戴するほか選択肢は無い」と感じた。

我輩は久しぶりに、他人の優しさに触れ、優しさを演じたのであった。

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References   [ + ]

1. 他人の表情は自分の鏡とは、我輩がコンビニアルバイトをしているとき、三十代のバイトリーダーがドヤ顔で言ってた言葉。無愛想に接客をすると、客も悪い態度を取ってくるという、接客態度に難があった我輩を戒める言葉だ。当時は下らないと耳を貸さなかったが割と大人になって効いてくる。
2. 返報性の原理とは、好意に対して好意で返そうとする人間の心理。